http://www.tennet.sakura.ne.jp/ <椽22正規版>

 


 ほっかいどうテレビの下にある平岸高台公園で、買ってもらったばかりの赤いボブスレーをとられた。
 三月生まれの敦史は、幼稚園の年長組でもとりわけ身体が小さく、後ろの席の歯医者の息子にいつもいじめられていた。今日も給食のクリームシチューを食べている時、クマのアップリケが付いた巾着袋を隠された。
 高台公園のそり遊びの列でも横入りをされ、雪捨て場で思い切り突き飛ばされた。
 半べそをかき、あとを追おうとしたが、青いスノトレブーツが雪に埋もれて動けなくなった。歯医者の息子は笑いながら踏み固められた雪の斜面を、敦史のボブスレーで滑っていく。ブーツに入った雪が解け、厚手の靴下のつま先が濡れる。
 豊平川の堤防沿いに立つマンションの真上に、藻岩山中腹の白い仏舎利塔が雪で霞んでいる。敦史は急に心細くなった。
「敦史はのろま、のろまは敦史」
 手だけバタつかせている敦史の横を、歯医者の息子は妙な節を付けて声高々に歌う。完全に雪に足を取られた敦史は、その場でぺたりと手をついた。ふわふわの雪に沈んだミトンの手袋が、小さな雪玉だらけとなった。
 北海道電力の三本ラインの鉄塔に雪が積もり、薄青かった空が下から徐々に灰色になっていく。公園の横のマンションの明かりが一つ二つと灯され、敦史は鼻の奥が寒さでツンと痛くなってきた。

― 鮎村尚「平岸ロック ――いちごアレルギー」より ―


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  文芸同人誌「椽」

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