http://www.tennet.sakura.ne.jp/ <椽27公表版>

 

 昨夜からの雪で路幅が狭くなっていた。除雪車が通った跡は鋭利なもので削られた影響で道路が光っている。
 まだ明けていない薄っすらとした町の中を走る車のライトが、次第に目立たなくなってきた。見上げれば、グレイの空はただそこにあって、何も映し出していなかった。それは僅かに光沢のある薄く透明な布で覆った悲しげで大きなグレイだった。
 細い雪が視界に入ってきた。雪の隙間をぬうように、次第に現れた白く濁りながらも光りを放ち始めた太陽は、低い位置で丸い輪郭を覗かせ仄かな乳白色の縁取りを保っている。わたしはその白へ向かっていた。目を細め、光の帯を辿って手を伸ばせば、この両腕にすっぽりと入る大きさであるのに、どんなに走ってもそこへ辿り着くことのできない少しの悔しさをのみこむ。
 なあ、夏。もしも今、一万円あったら、お前、何が欲しい。
 一瞬、兄の声が聞こえた気がして、わたしは目を閉じた。

― 悠希マイコ「ファミリー」より ―


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  文芸同人誌「椽」

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