http://www.tennet.sakura.ne.jp/ <椽21正規版>

 


 転勤族の淳と暮らすようになって、初めての引越しだった。午前中に荷物を積み込んだトラックを見送り、佐知子は何もなくなった部屋を見渡した。初めてこの部屋に来た時の事を思い出している。母と激しく衝突をして家出同然に淳のアパートへ来たのだ。一年余りを淳と一緒に過ごしたこの部屋に色々な思いが滲みていた。
「何も忘れ物はないね」
 後ろから淳の声がした。
「大丈夫よ」
 佐知子は、1LDKの部屋の隅々を見回ってから言った。
 二人は、トラックには載せられなかったインコのジロウを入れた籠と、バッグを持って淳の車に乗り込んだ。青い羽根と鋭い目をしたジロウは、淳がここに住んで間もない頃、迷い込んで来たのだという。後部座席で青い羽根を閉じておとなしくしている。 「荷物は、三時頃着くって言っていたよね」
「部屋が空くのが二時過ぎらしいからね。会社の人たちが、手伝いにきてくれる事になっている」
 二人が住む事になっている住宅は、釧路市郊外の比較的霧が少ない所にあるのだという。地図を開いて、美原五丁目という場所を助手席で確かめる。淳が運転する車は、高速道をひた走った。

― 倉田優「海色の玄関」より ―


Enter

  文芸同人誌「椽」

+ このホームページの利用条件 +

このウェブサイトに掲載している各作品の著作権は各執筆者に帰属しています。本公開は私的な閲覧の目的のみに限って行っているものであり、このウェブサイトの利用条件として各作品のすべての内容にわたり複製、転載、改変、配付、送信等の行為を禁じます。この条件にご同意をされる場合のみ、ご入場ください。 [ Enter ] をクリックした時点で、この条件に同意したものとみなします。

Copyright © 2008-2019 椽の会 All Rights Reserved.