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 真夏の野外フェスは想像していた以上の暑さだった。
 平野地特有の無風の中、照りつける太陽は帽子を簡単に通り越し、頭部からビーチサンダルを履く足の甲にまで一直線に降りてくる。
 用意してきた冷凍水は、昼を過ぎてすっかり溶けてしまった。すぐに乾いてしまう口に何度も流し込むが、喉は一向に潤わない。
 緊張のせいかもしれない。更年期とも考えられる。汗はだらだらとこめかみを伝わり、顎からぽたぽたと落ちてくる。首に巻いたタオルもすでに湿っていた。
 数年前から始まった札幌近郊の小さな街で開催される夏のライブイベントは、回を追うごとに豪華になっていき、週末の二週に渡り開催される大規模なものとなった。会場は遊園地と隣接されており、四つのステージを設けている。周りを囲む芝生ブースでテントを張り宿泊もできるし、バーベキューを楽しむ家族連れや、若い人たちの集団で賑わう音楽イベントとなった。
 あのステージに一人息子の陸が立つというのだ。
「楽しみだよ、わくわくするね」
 夫はこの言葉を何度も口にした。それは半年前の家族ラインで知らされてから今に至るまでだ。

― 悠希マイコ「恋のうた」より ―


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  文芸同人誌「椽」

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